自分自身を表現するとは? 表現アートセラピー  日本の第一人者 日本女子大学 小野京子特任教授に聴く

2017.8.23  Cosmic Academy Japan

出会い 表現アートセラピー

生きる意味みたいなものを探していたんでしょうね。人の心ってどうなっているんだろうか? そんなことに興味がありました。そもそも心理に興味をもつ方は、成長過程の中で悩みを抱えていることが多いと思うんです。私自身もそうでしたね。

だから大学に入って心理学を学びました。私がついたのはカウンセリングの先生だったんです。アメリカでカール・ロジャーズに学んだお弟子さんだったんです。その先生からカール・ロジャーズのことやカウンセリングのことを学んでいるうちに、私も「カウンセラーになりたい!」「心理療法をもっと学びたい!」って思うようになったんです。
当時はまだ、今のように心理学の講座やワークショップがたくさんある時代ではありませんでしたから、心理療法を学ぶには、どこかの先生のお弟子さんになるのが一般的でした。
私は、そのころ流行っていたエンカウンター・グループに参加しながら、カウンセリングを学んでいました。
そのカウンセリングの先生(柘植先生)からカール・ロジャーズ(※1)がセミナーをやっていることを聞き、大学4年生の夏、渡米しました。

はじめはセミナー参加だけのつもりだったのですが、アメリカには日本でも知られていない療法がたくさんあることを知り、それをもっと学びたいと思うようになっていったんです。
そこで今度は、アメリカのソノマ大学ということころに留学することにしました。
専攻したのは人間性心理学。人間の分析とか解釈ではなく、もっと人間の可能性とか潜在的な力を伸ばす心理学でした。

でも、カウンセラーになりたい人はやはり自分もカウンセリング、心理療法を受けた方がいいということに気づき、アメリカで言葉による心理療法を受けていたんです。
言葉によるセラピーは、話すことで自分が自由になったり、癒されていくのだと思うのですが、私の場合、言葉だけだと自分が知っている自分をグルグル回ってしまって、そこから抜け出せないんです。こういう家庭環境に育って、こんなことがあった。だから今、こんなことで悩んでいるのだろうという具合に、すでに自分が知っている情報の中でウロウロしてしまい、新たな気づきにつながらない。自分の知っている自分しか出てこなかったんです。

そういった時、アメリカの指導教官からカール・ロジャーズさんのお嬢さんのナタリー・ロジャーズ(※2)さんがやっているトレーニングを受けてみてはどうかと勧められました。
実は、彼女は私が留学していたソノマ大学の近くにお住まいだったんです。

ただ、その頃私はアートセラピーというものに対してとても抵抗がありましてね。
絵を習ったこともあったのですが、下手で、アートそのものがあまり得意ではなかったんです。
それに、ナタリーさんのワークショップは10日間の合宿で、その間ずっと表現漬けになるんですよ。その時は、それがとても怖いと思いました。
でも、ロジャーズさんのセミナーのときにナタリーさんもいらしていて、体を動かしたり、絵を描いたりと、少しだけご自身のメソッドを提供していたんです。それにロジャーズ派のナタリーさんだから、そんなに怖いこともないだろと思い直して、参加することにしました。
著書にも書きましたが、その時の体験は自分の内側と外側をひっくり返すような経験となりました。
言葉でのカウンセリングは、自分の知っている自分の中で、ただグルグル回っていただけでしたが、ダンスをする、太鼓を叩く、そういった表現の中で自分の潜在的な力、自分自身の今まで知らなかった部分に触れることができたんです。意外にも、ものすごい生命力が自分にあることを知りました。

(※1)アメリカ合衆国の臨床心理学者。来談者中心療法(Client-Centered Therapy)を創始した。カウンセリングの研究手法として現在では当然のものとなっている面接内容の記録・逐語化や、心理相談の対象者を患者(patient)ではなくクライエント(来談者:client)と称したのも彼が最初である。(wikipediaより)

(※2)高名な心理学者カール・ロジャーズの娘。父とともにパーソン・センタードアプローチを提唱し、心理的に安全で自由な環境を提供することを大切に考える。パーソンセンタード表現アートセラピーを確立した。1984年米カリフォルニアでパーソンセンタード表現療法研究所を設立し、以来表現アートセラピーのトレーニング、普及に当たった。表現アートセラピーの分野での重鎮。(表現アートセラピー研究所ホームページより)

言葉では表現しきれないもの

たとえば「寂しい」という言葉。「寂しさ」はあまり感じたくないものとして扱かわれますね。でも「寂しさ」を絵で描いていると、また楽器で表現してみると、「寂しさ」の中に「瑞々しさがあったり」、寂しいからこそ人とつながろうと思ってみたり、「寂しい」ってことがネガティブに感じなくなるんです。反対に「寂しさ」にいろんな味わいがあることに気づくんですよ。言葉で表すよりもっと深い体験をすることができるんです。
だから表現というのは、「言葉」ではないところ「無意識」の領域に私たちを連れて行ってくれるんです。もちろん、無意識の領域には心の傷のようなものもありますから、それには注意しなければなりません。でもそれ以上に、自分が今まで気がつかなかったことに触れられるので、深い体験ができるんです。

今思うのは、何か素晴らしい芸術作品を生み出すだけがアーティストではない。人間はひとりひとりがアーティストではないかということです。
自分自身を表現するっていうことが、そもそも人間の根源に備わっていて、古代の人はそれをクリエイティブに表現していたのではないかと思うのです。なぜならそれは、自分自身としっかりつながることだったのではないでしょうか。
現代社会はその部分が弱くなっているように思います。
だから、自分自身を表現することで、自分自身とのつながりやコミュニティとのつながりを取り戻す必要があって、それにはこの表現アートセラピーは、とてもよい方法です。

表現アートの楽しさ

表現することはとても楽しいことです。さまざまな表現の方法はありますが、私は体を動かすムーブメント(※3)が好きです。

ナタリーさんのトレーニングは、10日間を4回くらいあっての卒業となるのですが、自分が思っていた自分自身のイメージはかなり変わりました。人というのは、無意識の中に智慧があるのでしょうね。
私たち人間の中にはいろいろな可能性があって、自分が知らない自分がいる。それをアートを通して表現することで、自分自身の豊かな可能性に触れることができるんです。
ダンスをしたり、太鼓を使って表現した時に、自分は生命力が結構あるな〜と思ったんです。心理学を学ぶためにアメリカまで行ったわけですからね。生命力がないわけはないのですよね。でも自分自身を否定的に捉えることが癖になっていたので、自分の中にこんなにイキイキとした生命力あることにとても驚きました。
それと「寂しさ」の捉え方が変わりました。
それまで自分はすごく寂しさを感じやすくて、それがテーマだと思っていました。
でも、さまざまな方法で寂しさを表現したら、寂しさは全然悪いものじゃないと思ったんです。
動物になってみるというエクササイズがあったのですが、その時私は狼になったんです。
狼なんて思いもよりませんでしたね。イメージの中で夜、狼になってひとりで走り回るんですが、それが全然寂しくないんですよね。むしろ清々しいんです。自然と一体になっている感じがして、ひとりなのに全く寂しくありませんでした。
なんだか月が懐かしくて、そこに向かって吠えているような気持ちにもなりました。

そこでは、自然との一体感を感じることもできました。
ナタリーさんがいうには、ご自分は全然意図していなかったらしいのですが、このプログラムに参加すると、みんなスピリチュアルな体験をするらしいです。自然との一体感、宇宙との一体感を感じ、自分自身をありのまま受け入れ、他人も受け入れ、広い意味で「愛」というものに出会う。そういう方たちが多いっていうことを言っていますね。

(※3)からだを用い、からだの動きやダンスなどで表現する。からだに注意を向けるため、今の自分のからだの感覚が覚醒され、豊かになる。そのため頭で考えるだけでない、実感や直感が育つ。心身や感情の解放、爽快感が促進される。またビジュアル表現のまえにからだをウォームアップすることで、より心の深い層からの表現や素直な表現が生まれる。(表現アートセラピー研究所HPより)

表現アートセラピー研究所設立へ

日本に帰ってきて、いろいろなワークショップをやったりしながら、表現アートセラピー研究所をつくりました。2003年からさまざまな講座やトレーニングコースを行なっています。今年で15年目になりますね。その他にもさまざまな大学の授業などでも講義と実技をさせていただいています。

でも日本はまだセラピーというと、病気の人が行うものというイメージをもたれがちですね。そうではなくて、もっと気楽に表現を楽しんでいただきたいと思うんですよ。絵を描いたり、体を動かしたり。
それと、メンタリストにとって自分自身がどういう人間なのか、何を感じているのか? ということに気づくことはとても大切なことなので、そういうことに役立ちます。

ずいぶん前から不登校や引きこもりが問題になっていますが、それは自分自身を表現できないからだと思うんです。
私自身も長い間「私は誰?」「本当の自分はどこにいるの?」って考えていましたからね。でも、表現していくうちに頭で考えていてもわからなかったことが、こんな風に感じていたんだとか、こんな風になりたかったんだってことに気づけました。
「自分ってこんな人間だったんだ!」って気づけたんです。

以前、東京学芸大学で教えていたのですが、その時の受講生が「自分が将来どうなりたいかわからない」「言葉で表現することができない」って言っていたのですが、でも、色や線で自分を表現していくうちに、自分自身とつながり、「あ〜自分はこんな風になりたいって思っているんだ〜」って気づき、自分に自信をもつことができるように変わっていったんです。
そうやって自分とつながり、自分自身を理解して、表現できるようになると、今度は他者とつながる喜びを得ることができる。だから自分を表現するってとっても大切なことなんですよね。
クリエイティビティ、コミュニケーション、コラボレーション力もアップしていきます。

表現アートの広がり

日本女子大学はわたしの母校なのですが、こちらの通信教育課程で、表現アートセラピーの科目が開設されました。特任教授として教えています。18歳から80代の方が学んでいます。人気の講座となっています。
2018年度からもっと芸術療法の科目を充実させる予定です。音楽療法や絵画療法、身体表現の科目が新設予定です。
また資格制度なども検討している最中なので、これからもっとこの分野も広がっていくのではないかと思っています。

※2016年度チラシ

小野京子
日本女子大学特任教授。
臨床心理士。アメリカで心理学、心理療法を学んでいた時に 表現アートセラピーに出会う。絵を描いてそれを文章(詩や散文)で表したり、体の動きで自分を表現したり、いろいろな表現を使って自分の内面の世界に触れる表現アートセラピーの魅力に魅了され続けている。20年程前からワークショップを行いはじめ、病院やクリニックなどでもアートセラピーを行ってきた。
国際表現アートセラピー学会認定表現アートセラピスト
(日本ではじめての資格取得者)
NPOアートワークジャパン理事長、表現アートセラピー研究所代表
(表現アートセラピー研究所Webサイトより)⇒表現アートセラピー研究所
⇒日本女子大学 通信課程 児童学科著書
⇒表現アートセラピー入門―絵画・粘土・音楽・ドラマ・ダンスなどを通して 小野京子 著 (誠信書房)
⇒癒しと成長の表現アートセラピー―EXPRESSIVE ARTS THERAPY 小野京子 著(岩崎学術出版)